ベルリオーズ - 幻想交響曲
ベルリオーズ「幻想交響曲」第4、第5楽章/ロリン・マゼール
ルイ・エクトル・ベルリオーズ(Louis Hector Berlioz、1803年12月11日 - 1869年3月8日)は、『幻想交響曲』でよく知られているフランスのロマン派音楽の作曲家である。この他に『死者のための大ミサ曲』(レクイエム、1837年)にみられるように、楽器編成の大規模な拡張や、色彩的な管弦楽法によってロマン派音楽の動向を先取りした。
ベルリオーズの肖像はかつてフランス10フラン紙幣に描かれていた。
原題は『ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲』(Épisode de la vie d'un artiste, symphonie fantastique en cinq parties )。「恋に深く絶望しアヘンを吸った、豊かな想像力を備えたある芸術家」の物語を音楽で表現したもので、ベルリオーズの代表作であるのみならず、初期ロマン派音楽を代表する楽曲である
概要[編集]
ベルリオーズ自身の失恋体験を告白することを意図した標題音楽である。各楽章に標題が付けられるとともに、1845年版のスコアでは演奏の際には作曲家自身によって解説されたプログラム・ノートを必ず配るようにと要請している(1855年版では、コンサートでの演奏であれば、各楽章の標題が示されていればプログラムは省略可能としている)。
幻想交響曲では、作曲者の恋愛対象(ベルリオーズが恋に落ち、後に結婚したアイルランドの女優ハリエット・スミスソン)を表す旋律が、楽曲のさまざまな場面において登場する。ベルリオーズはこの繰り返される旋律を「イデー・フィクス」(idée fixe、固定観念、固定楽想などと訳す場合もある)と呼んだ。これはワーグナーが後に用いたライトモティーフと根本的に同じ発想といえる[2]。「イデー・フィクス」は、曲中で変奏され変化していく。例えば第1楽章では、主人公が彼女を想っている場面で現れ、牧歌的であるのに対して、終楽章では魔女たちの饗宴の場面で現われ、「醜悪で、野卑で、グロテスクな舞踏」になり、E♭管クラリネットで甲高く演奏される。
レナード・バーンスタインはこの曲を、「史上初のサイケデリックな交響曲」だと述べた[3]。これは、この交響曲に幻覚的、幻想的な性質があり、またベルリオーズがアヘンを吸った状態で作曲した(と本人が匂わせている)ことなどによる。
曲の構成[編集]
以下の引用は、1855年版の作曲家自身のプログラムに基づく翻訳である[5]。
病的な感受性と激しい想像力に富んだ若い音楽家が、恋の悩みによる絶望の発作からアヘンによる服毒自殺を図る。麻酔薬の量は、死に至らしめるには足りず、彼は重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見、その中で感覚、感情、記憶が、彼の病んだ脳の中に観念となって、そして音楽的な映像となって現われる。愛する人その人が、一つの旋律となって、そしてあたかも固定観念のように現われ、そこかしこに見出され、聞えてくる[注 2]。
第1楽章「夢、情熱」 (Rêveries, Passions)[編集]
彼はまず、あの魂の病、あの情熱の熱病、あの憂鬱、あの喜びをわけもなく感じ、そして、彼が愛する彼女を見る。そして彼女が突然彼に呼び起こす火山のような愛情、胸を締めつけるような熱狂、発作的な嫉妬、優しい愛の回帰、厳かな慰み[注 3]。
ラルゴの序奏部とソナタ形式の主部からなる。急速な主部に入ると間もなく、フルートとヴァイオリンによって「イデー・フィクス」が奏される。ハ短調→ハ長調
第2楽章「舞踏会」 (Un bal)[編集]
とある舞踏会の華やかなざわめきの中で、彼は再び愛する人に巡り会う[注 4]。
フルートとオーボエによる「イデー・フィクス」の旋律が随所に現れるワルツの楽章である。最後はテンポを速めて華やかに終わる。複数のハープが華やかな色彩を添える。イ長調
第3楽章「野の風景」 (Scène aux champs)[編集]
ある夏の夕べ、田園地帯で、彼は2人の羊飼いが「ランツ・デ・ヴァッシュ」(Ranz des vaches)を吹き交わしているのを聞く。牧歌の二重奏、その場の情景、風にやさしくそよぐ木々の軽やかなざわめき、少し前から彼に希望を抱かせてくれているいくつかの理由[主題]がすべて合わさり、彼の心に不慣れな平安をもたらし、彼の考えに明るくのどかな色合いを加える。しかし、彼女が再び現われ、彼の心は締めつけられ、辛い予感が彼を突き動かす。もしも、彼女に捨てられたら…… 1人の羊飼いがまた素朴な旋律を吹く。もう1人は、もはや答えない。日が沈む…… 遠くの雷鳴…… 孤独…… 静寂……[注 5]
羊飼いの吹く Ranz des vaches はアルプス地方の牧歌(牛追い歌。ロッシーニの『ウィリアム・テル』序曲の第3部参照)。コーラングレと舞台裏のオーボエによって演奏される。この楽章の主要旋律(20小節目からフルートと第1ヴァイオリンとで奏される)は、破棄するつもりだった自作『荘厳ミサ』のGratias agimus tibiでも使用されている。最後に、コーラングレによる牧歌が奏されると、4個のティンパニが遠くの雷鳴を奏し、静かに終わる。 ヘ長調
第4楽章「断頭台への行進」 (Marche au supplice)[編集]
彼は夢の中で愛していた彼女を殺し、死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。行列は行進曲にあわせて前進し、その行進曲は時に暗く荒々しく、時に華やかに厳かになる。その中で鈍く重い足音に切れ目なく続くより騒々しい轟音。ついに、固定観念が再び一瞬現われるが、それはあたかも最後の愛の思いのように死の一撃によって遮られる[注 6]。
1845年版のプログラムでは、ここでアヘンを飲んで夢を見ることになっている。低弦、大太鼓、ホルンによって行進曲が開始される。「イデー・フィクス」は、最後にほんのわずか現れるが、全オーケストラによってかき消されてしまう。 ト短調

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